ソフト選びで底なし沼に『Clip Studio』への道
パソコンにおける黎明期を過ぎる頃、ペンタブがまだ高額で、購入した安価モデルを使おうとあがいてもがいて失敗が続きました。
それでも試行錯誤はやめません。
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絵描きソフトをどうするか
絵師にとって、作品を表現するソフトをどれにするかは、ペンタブ選びと同じくらい重要な要素です。
今でこそ『Clip Studio』に落ち着きましたが、当時のセルシス社はまだ有名ではありませんでした。
本屋に行くと、デジ絵の参考書としてずらりと並んでいるのは『Photoshop』。
8割方は「フォトショ」で、使っていなければモグりと言わんばかりでした。
当然、その時期のスタンダードだと知れば購入を考えたくなります。
しかし、鬼のように高いのです。
小型の液晶ペンタブレットはローエンドのパソコンより高いくらいでした。
ハイエンドパソコン並みの高額ソフトで、その代表格が『Photoshop』なのです。
断言するのも悲しいですが、はっきり言って資金はありません。
月額契約制となるずっと前の時代の話ですから、当然『Photoshop』は初回購入版だけでした。
「お試しで一ヶ月だけ使ってみよー」
などというユーザーフレンドリィなサービスはなかったのです。
他のソフトも同じです。
お試し版ダウンロードが用意されていないのは、ほぼ当たり前でした。
描いてみないと、使ってみないと分からないのです。
パッケージの説明文だけを読んでも、自分に合うソフトなのかどうかはさっぱり分かりません。
一か八かソフトを買って試す。
それが当時の基本スタイルでした。
「ペンタブを魔改造して、使い物にならなくした私」
にとって、ソフトの購入もデッド・オア・アライブです。
ちなみに、Windowsにプリインストールされていたペインターソフトにはレイヤー機能がないので話にならない事くらいは分かっていました。
『Photoshop』が主流なのは確実なので、その描き方を踏襲できる…ってかもうほとんど一緒のソフトであれば、わざわざ高いソフトにする必要などないのだと考えました。
最近、引退した方じゃないアムロが絶対に乗らない「ガンガル」から、トレフォイルでもなければスポーツパフォーマンスでもないニワトリの足跡的なロゴの「アビダス」まで、それっぽければ、それでいいんじゃい!
という層は、必ず存在しますので、昔からパチモノってなくならないんだと思っています。
もっとも、ソフトは「用途が同じ」というだけで、決してバッタモンではありませんが…。
しかし、ここにも落とし穴がありました。
気づいたのは、ずっと後のことです。
安価ソフトはまさに底なし沼
当時の私の正直な感想は、「どのソフトが良いのかまったく分からない」です。
イラストレーターの知り合いでもいれば別でしょうが、デジ絵描き自体が珍しい時代でした。
いつものように様々な考察を、あらゆるベクトルにこねくり回して迷走した結果、「あるソフト」を手に取りました。
ソフト名はここでは控えます。
私は絵描きである前に販売員なので、特定商品のマイナス面を語るのは厳禁だと思っています。
というわけで、このソフトを「D」と呼びます。
パッケージは素晴らしく、綺麗なイラストが描かれたものでした。
説明を見る限り、レイヤー構造もきちんと重なっています。
「これなら同じ描き方ができる!」
どうです。
奇妙なメットの赤い人に話しかけれたら、迷わず答えますね。
クソ高いソフトなどいらんのですよ。
名が知れてるなんて飾りです。
上の人にはそれがわからんのです。
それはともかく、魔改造でペンタブを潰してますから、その失敗を取り返したいとも思っていました。
ソフト側でカバーできるかもしれない…という淡い期待もありました。
初期段階で失敗している時点で、もう取り返しなんかつかないわけですから、すでに負のスパイラルに片足を突っ込んでいると思った人もいるでしょう。
違います!
ふつーに罠だったのです。
片足どころか両足突っ込んでます、底なし沼に。
実はこのソフト、ラスター構造のレイヤーしか用意されていませんでした。
ベクターがないのです。
『Clip Studio』に慣れている人にしてみれば驚かれるかもしれません。
デジタルで絵を描かない人にはさっぱりですよね(汗)
筆で色を“塗っていく”ペイント機能があります。
これが、「面に効果的なもの」がラスター機能であるのに対し、“線を引く”ドローイングはベクター機能が向いています。
一度、引いた線を歪ませたり、太さを変えたりできるからです。
拡大縮小、時には反転しながらバランスを見て、線の位置を微妙に補正し、時には線が交差した部分までを一度に消すこともできます。
はっきり言ってしまえば、デジ絵が描きやすいのはこれらの機能があるからこそです。
そして、絵画のような描き方、全て塗る方法で描くことなど、多くの絵師さんはそのように描いていたりもします。
描けるのですよ、ペンタブがあれば。
ええ、そうですとも。
ペンタブが使える人にとってはね。
ラスターで塗るように線を引けば良いので、ペンタブで滑らかな線が引ける人であれば、確かに役立つソフトです。
私も持っていますよ、ペンタブ。
しかし、私はペンタブを穴だらけに魔改造していますので、もはや手元にはあるのはガラクタです。
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(一つ前の記事↑を参照)
持ってはいますが、使えない…。
ペンタブの形をしているだけで、決してペンタブとして使えない私にとっては、ハズレソフトを選んでしまったのです。
板前さんが刺身包丁ではなく、ノコギリを買ったようなものです。
侍ならムラマサが欲しいのは『ウィザードリィ』の常、竜王を倒すならロトの剣と相場が決まっています。
レベルを上げまくって、ひのきの棒で倒しに行くツワモノもいるでしょうが、そんなもんは金持ちの遊びみたいなものです。
スライム相手に苦戦している当時のしばにとって、ズタズタの最下位ペンタブ『Bamboo』で挑むなど、竜王ん家をノックする前に教会で叩き起こされるのは目に見えていました。
謎の修行ふたたび -職人芸への道ー
当時の私は、ソフト「D」の特性が他と違っていることを知りません。
そもそもレイヤー構造の上下関係は知っていても、ベクターやラスターの特性まで理解してませんでした。
お絵かきソフトとはそういうものだと思っていたのです。
さあ、始まりますよ。
「上手に描けないのはソフトのせいじゃない。自分の腕が未熟なだけだ」
新たな試行錯誤が始まりました。
「要するに、コンマ数ミリずつマウス移動させてはクリックを繰り返して書き続ければ、ペンタブと同じように描けるのではないか?」
一昔目のドット絵師でもやらないような結論に辿り着きます。
スキャナーで読み取った下絵にレイヤーを重ねて、様々な筆のペイント機能を使ってはマウスで緻密に描いていく…。
もはや職人芸を超えて、曲芸の域です。
方眼紙を用意し、マウスの先端に赤いポインターを自作して取り付けました。
そのポインターの位置をたまに見ては、移動した距離を1ミリ以下の単位でクリックを繰り返してゆく…。
当然、ベクターレイヤーではないので、描いた線を移動させたり変形させるパスツール機能はありません。
一発描きが基本です。
筆からマウスに持ち替えた日本画家になった気分です。
もちろん、Ctrl+Zで戻ることはできますが、修正ができない以上、Ctrl+Zで描いては戻り、戻っては描く…。
カチカチカチ…。
マウス音だけが不毛に響く時間を過ごすこと数日間。
そうしてできたのは、およそ人に見せられないようなサイケデリックなもの。
イメージしていたものとは似ても似つかない、見るも無残な「何か」でした。
時間をかけて得たものは虚無感だけです。
「違う。なんか違う!」
何が違うのか。
どこで間違ったのか。
誰でもいいので教えてほしいと心の底から願いながら、ひたすら画面に向かい続けた若かりし頃のしばでした。
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